Lynk Labs, Inc. v. Samsung Electronics Co.

最高裁で上告受理を検討中

Pre-AIA102(e)項の先行技術はIPRで使えるのか?
2026年2月2日SamsungIPR請求人)が意見書提出

 Summarized by Tatsuo YABE  2026-02-13


本件はIPR請求を受けた特許権者による「実務上確立された法理」に対する切り込みである。即ち、IPRにおいて請求人が使えるカードは102条と103条であり、無効用の資料は特許と刊行物に限られている(米国特許法311条(b)項)。Pre-AIA102条(e)項では公開された先願(後願の出願日時点では公開されていない)は後願に対する引例となる。このPre-AIA102条(e)項の先願が311条(b)項で言う「刊行物」に該当するのかが争点である。 事実、IPR及び査定系再審査においてPre-AIA102条(e)項の先行技術は引例として使われてきた。言い換えると、102条(e)項の先行技術をIPRあるいは再審査では引例としないという判例および規定はどこにも存在しない。 故にこれをIPR(および再審査)における「実務上確立された法理」である。

Lynk Labs, Inc. v. Samsung Electronics Co., No. 25-308

■ 権利者:Lynk Labs
■ 特許:US 10,687,400 (400特許)
最先の優先日:2004年2月25日(仮出願 60/559,867
400特許の出願日(2019年11月22日)
特許日:2020年6月16日
■ IPR請求人: Samsung
■ 問題となった先行技術:Martin US PG Publication No. 2004/0206970
出願日:2003年4月16日
公開日:2004年10月21日

したがって、Martinは400特許に対するPre-AIA102条(e)項の引例にはなりうる。

問題意識(出発点)

IPRInter Partes Review)において、Pre-AIA 102(e)項による先願が、IPRの対象となる特許の優先日後に公開された場合でも先行技術として使用できるのか? 即ち、Pre-AIA102条(e)項による先行技術が米国特許法311条(b)項の「刊行物(printed publication)」に該当するのかが争点である。当然であるというのが「実務上確立された法理」なので、権利者Lynkはこの法理に切り込んでいるのである。また今回最高裁が上告を受理するか否かを検討しているということ自体が実務者にとっては少々驚きである。

米国特許法311(b) によると、「IPRで無効を主張する根拠条文は102条と103条のみで、かつ、無効の根拠となるのは特許又は刊行物(patents or printed publications)に限る」と規定している。
(b) Scope. --
A petitioner in an inter partes review may request to cancel as unpatentable 1 or more claims of a patent only on a ground that could be raised under section 102 or 103 and only on the basis of prior art consisting of patents or printed publications.

② 実務・判例の扱い

PTABおよびCAFC(連邦巡回控訴裁)の立場は一貫しており、Pre-AIA102条(e)項の先行技術を引例として使用できる。その理由は、311(b)項は102または103に該当する先行技術であること」;形式が patent または printed publication であること」という 2つの要件を課しているだけで、公開時期がIPRの対象となる特許の優先日より後であることを排除する文言はない。公開された特許出願は「printed publication」に該当し、その先行技術日Pre-AIA102(e)/AIA102条(a)(2) により出願日まで遡る。これが「実務上確立された法理」である。

Ex Parte Reexamination(査定系再審査) との比較
MPEP 2209では、査定系再審査においても、使用可能な先行技術は、patents または printed publicationsであり、無効の根拠条文は102 / 103 に基づくものと記載されている。即ち、Pre-AIA 102(e) AIA 102(a)(2) の先行技術は、公開後であれば出願日に遡って先行技術として使用可能である。そもそもIPRは、Inter partes reexamination (当事者系再審査)の後継制度であり、先行技術の「範囲」自体を狭める意図はなかったという理解が、立法趣旨に鑑みて妥当する。

但し、査定系再審査に関わる条文(米国特許法301条~304条)のどこにもPre-AIA102(e)項の先行技術を含むとは明示されていない。しかし、査定系再審査は、「特許性(patentability)を再度審査する制度」であり、運用上はMPEP2209に記載された通りでPre-AIA102条(e)項の先行技術を排除したという判例はない。(より詳細は以下「考察」を参照のこと)

④ 問題提起(違和感の正体)
米国特許法102条で何が引例になるかを一旦横に置き、米国特許法311条(b)項を素直に読むと、
printed publication」とはIPRの対象となる特許の優先日前に公衆がアクセス可能なものという解釈も成立する。

さらに、Pre-AIA102条(e)項では、発明日(後願あるいは特許)の前に出願され後に公開された先願(application for patent)と記載されており、”printed publication”という用語は使われていない。因みに、Pre-AIA102条(a)項、(b)項も”printed publication“という用語を使っている。 IPRで利用可能な引例した311条(b)項では「刊行物(printed publication)」と規定している。

⑤ CAFCの判断と今後の予想
本件、Lynk Labs v. SamsungNo. 25-308)では、CAFCが「102(e)による公開公報は IPRで使用可能」と判断した。 現在、最高裁が certiorari(上告受理)するか検討中である。

最高裁が、不受理の場合には現行実務の運用が確定する。 即ち、「実務上確立された法理」が維持される。

最高裁が受理すれば、米国特許法311(b)に「公衆アクセス時期」の黙示要件があるのか、それとも現行解釈を明示的に追認するのかを最終判断することになる。 万が一、最高裁が311条(b)項で言う「Printed Publication」の解釈を、「Pre-AIA102(e)項を除く」と判断すれば、査定系再審査および侵害裁判における無効資料(102条(e)項の先行技術を含む)との整合性が取れなくなる。 即ち、「実務上確立された法理」が崩壊する。


考察:

米国特許法の条文上は、査定系再審査において引例となるのは米国特許法301条の規定によるとのみ記載されており、「査定系再審査で 102(e) 項の引例を含む」とは明示されていないが、再審査の実務で102条(e)項の先行技術を引例としないという運用はない(判例はない)。「実務上確立された法理」となっている。

 

IPR

Ex Parte Reexamination(査定系再審査)

提出できるもの(無効・拒絶理由の証拠)

米国特許法311(b):

patents or printed publicationのみ

米国特許法301:

patents or printed publicationのみ

無効・拒絶を主張する根拠条文

米国特許法311(b):

102/103条のみ

条文による規定なし。

 

その他

 

実務上は102/103条のみ;

 

In re NTP (Fed. Cir. 2011)ではクレームが補正されたり、優先日の問題を判断する場合には112条も関与すると判示した。

 

MPEP 2209 では102/103条のみと記載

「1」 条文は「102(e) を含む」とは明示していない(事実)
再審査の根拠条文は302条であり、先行技術として利用できるのは301条によると規定されている。 301条においては、特許または刊行物に限定されると規定がある。なお、再審査の請求が受理されるには303条(a)項の要件、すなわち、「対象となるクレームの特許性に対して実質的な新たな疑義が生じる(SNQ)」という基準を満たすことが必要となる。しかし再審査に関する特許法301304条のどこにも「102(e) を含む」または、「102(a), (b), (e) のいずれも対象」といった列挙的な規定は存在しない。

「2」 「102(e) が当然に含まれる」と解釈されてきた理由
査定系再審査は、そもそも「特許性(patentability)を再度審査する制度」である。特許または刊行物によりクレームの特許性に新たな疑義を生じさせるということは、クレームの新規性と進歩性に対する疑義ということに繋がる。即ち、再審査で特許性を判断する上での根拠条文は、§102(新規性)§103(進歩性)となる。 このとき、Pre-AIA102(a)項、(b)項の引例だけに限定し、102(e)項の引例を除外するという法的根拠が、どこにも存在しない

そのため実務・判例・MPEPでは一貫して、102(e)項の先行技術を含む」という扱いがなされてきた。

「3」 MPEP 2209 が「補っている」もの

MPEP は、新しいルールを作るものではなく条文が黙っている部分を実務的に言語化しているにすぎない。MPEPが勝手に 102・103条を追加したわけではない、条文構造から当然に導かれる前提を説明しているという位置づけになる。

 

以上